第12回 マレーシア人の歴史への関心

rekisi

 

 あけましておめでとうございます。今年も何卒ご愛読をよろしくお願い致します。
 さて、今回は少し趣を変え、マレーシアの人たちが自分たちの歴史の対してどのくらい関心があるのかについて話してみたいと思います。これはあくまで過去数年にわたって経験したことに基づいており、まったくの私見であるのでご了承ください。

 

民族別に歴史への関心は異なる

 

 マレーシアは主にマレー人や華人、インド人などから成り立っている社会です。このため、民族により歴史そのものに対する見方や関心が異なっているようです。

 

 「歴史」の科目は小学校から始まります。マレーシア史や世界史を合体させて学習するのですが、マレーシアの歴史にはマラッカ王国やマレー半島の日本軍の占領、マラヤ連邦の独立やマレーシア連邦の結成、イスラム教史などが含まれています。マレー人はマレーシアで政治的に優位に立つ民族という意識があるからか、彼らは歴史に一定の関心を払っています。国立大学の歴史学科の学生比率は、圧倒的にマレー人が多く、歴史の重要性を認識しているようです。マレー人の場合、昔のスルタン名をよく知っていたりする人もいて、驚くこともあります。

 

 ところが、華人の場合になると、少し状況が変わります。華人学校もマレー人学校と同じように歴史の科目があり、内容もマレー人の学校とほぼ同じカリキュラムで、先生はマレー語で教えています。

 

 しかし、歴史への関心はマレー人とはかなり異なります。華人は中国本土の歴史については比較的よく知っているのですが、マレーシアの歴史となると関心があまりありません。さすがに独立年と日にちぐらいは記憶していますが、その他のことはほとんど関心がないようです。華人らは歴史を「年代を覚えるだけの科目」と見ており、学校時代には苦痛を感じていた人も多かったようです。このためか、国立大学の歴史学科の華人の学生比率はほぼ皆無に等しいのです。国立大学への華人の入学はかなり難しいことも相まって*(注)、入学したとしてもビジネスに直結する学部を選びます。「歴史を学んで何になる」や「歴史は金を生まない」といった考えが根底にあるのも無関心に拍車をかけているようです。

 

 インド人の場合、インド本土やマレーシアのインド人の歴史への関心は比較的高いのではないでしょうか。このためか、大学の歴史学科には毎年数人のインド人が入学します。ただ、関心のトピックはインド人関連の歴史が占め、論文もこれに関することが非常に多いのです。また、インド人の場合は英語もマレー語も堪能な人が多いため、マレーシアだけでなく、世界史に関心を寄せている人が多く見受けられます。

 

書店の書籍が少ないことと言語別が関心度に差が出る

 

 さて、マレーシアの書店に行くと、歴史の書棚は日本と比べるととても少ないのです。あったとしてもアジアやヨーロッパ関連の歴史書籍が多く、マレーシアの歴史を扱う書籍の棚は雀の涙ほどです。

 

 近隣のタイやインドネシア、ベトナムでは書籍自体の発行数も多く、書店にはあまたの書籍が所狭しに並びます。例えば、上記三国では自国のライターが書いたものも豊富ですが、英語を翻訳した書籍も数多く見られます。いかんせん、マレーシアの場合は民族に関係なく、本自体を読む人が圧倒的に少ないのも歴史を知ることを妨げています。

 

 また、マレーシアの歴史書籍については英語で書かれたものが占め、マレー語で書かれている書籍も少しはありますが、ここでも言語の問題が出てきて共通の知識を共通の言葉で読むという行為がマレーシアではなかなか難しいのが実情です。もちろん学者レベルになれば、こういったことは起きませんが、一般人や学部生や修士の学生については言語の壁が歴史を学ぶ壁にもなり、関心にもつながっていないのかと思われます。

 

マレーシアには歴史を伝える建物がほとんどない

 

 最後に、建物が人々の歴史観に与える影響をちょっと考えてみましょう。

 

 日本の場合、全国津々浦々ほとんどどこに行っても歴史的な建物が見ることができます。例えば、古代からある出雲大社や伊勢神宮、平等院といった神社仏閣、某大名の住居といった昔の要人の住居、明治時代に作られた東京駅などその他諸々の建物を通じて歴史を感じることができます。子どものときからこういった建物は身近にあり、日常生活のなかにも溶け込んでいるため、自ずと「歴史を大事にしよう」といった感覚が芽生えるのです。こういった建物は中国や西洋などの影響を受けて作られたものも多いですが、オリジナリティーを出して日本を感じさせる建物ともなっています。

 

 一方で、マレーシアの場合はどうでしょうか。ペナンやマラッカは現在、世界遺産に指定されていますが、そのほとんどは植民地時代に作られています。「マレーシア」特有の歴史的建造物は全国にも皆無に等しいのです。確かにマレー人の19世紀に作られたモスクや華人の中国寺院といった建物は少なからずありますが、日本のように全国津々浦々に歴史的建造物が建っているわけではありません。あったとしても英国が建てた建築物だったりするので、自分たちの歴史が身近に感じる建物が少ないのです。

 

 こういった要因からマレーシア人の間の歴史に対する関心は、他国と比べても低いと言えると思います。

 

*(注):マレーシアの場合、以前にもお話したいわゆる「ブミプトラ優遇政策」で国立大学への入学はマレー人を含むブミプトラが優遇されています。マレー人はある程度簡単に入れるものの、華人やインド人は狭き門になっているのが実情です。

 

伊藤充臣■在馬12年目。マラヤ大学の歴史学科で修士号と博士号をだらだらと10年がかりで取得。趣味は読書と語学勉強。最近は日本の小説に読みふけっていると同時にミャンマー語の勉強も始めた。

 

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