第28回 マレーシアで博士号を取得してわかったこと

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今回はちょっと趣向を変えてマレーシアの「博士号」についてのお話です。英字紙などでマハティール首相が「Dr.M」と呼ばれていることをご存知の方も多いでしょう。このようにマレーシアや海外では博士号が日常生活でも大きな意味を持ちます。博士号をお持ちの伊藤さんに解説してもらいました。

 

今月はマラヤ大学で卒業式が開催されます。今年も多くの卒業生が卒業します。今回はちょっと趣を変え、マレーシアで博士号を取得してわかったことについてお話します。

 

博士号とその待遇

 

そもそも博士号とは何なのでしょうか。博士号とは学士、修士のうえにあたる学位で、最高の学位となります。

 

もともとはヨーロッパで哲学や薬学、法律の分野においてその学問をマスターした人に対して授与されたものですが、近代になってさまざまな学問にも適用され、今に至っています。大学にある大学院に通い、博士論文を完成させて提出して認められると博士号が取得できるのです。

 

日本では「博士」の称号を取っても、あまり日常生活のなかでは影響はありません。これはおそらく戦後に導入されたアメリカの制度と関係しているのかもしれません。また、博士号の取得は単にクラスに出て取得できる程度に思っていらっしゃる方々もいるようですが、実際はそんなものではありません。学術誌への発表や論文の作成(マラヤ大学の場合英語で最大10万ワードーーA4サイズで400ページまで)、学内外での論文査定、学部長を含む口頭試問など、厳しい難関をくぐり抜けなければ取れないのです。

 

日本ではたとえ博士号を取得して、名刺に記載してもあまり敬意を払われません。博士号を取得していても名刺などには一切記載しない人もいるようです。

 

しかし、マレーシアでは違います。博士号を取得した場合、社会的な地位は格段に上がり、「一般人」とは異なることになります。マレーシアは英国の植民地であったため、教育制度や社会制度は英国のものを取り入れています。歴史的にも階級社会で成り立ってきたので博士号も含めた称号を取得した人たちは敬意を払われるのです。

 

それでは、日常生活のなかで具体的にどう違うのでしょうか。結論から言うと、それほど大きく変わるわけではありませんが、やはり敬意をもって人々は接してきます。

 

例えば、銀行で口座を開くときや航空券を購入するときなど「Dr」称号を記載する欄が出てきます。マレーシアにはTunをはじめ、DatukやTan Sri、Datoといった称号もあり、これら称号とともにDrも含まれています。記載は必須ではありませんが、やはり社会的地位が上位であるため、取得した人たちはたいてい記載します。ちなみに、医者もDr称号を付けます。Drだけだと医者の称号なのか他の学問の博士号を取得したのかはわかりませんので、その場合は本人に聞くしかありません。

 

博士号は人の名前の前にDrをつけますが、呼ばれる際も「Drなになに」と呼ばれます。また、言葉使いもそれまでスラングを使っていた人が途端に丁寧な言葉を使い始めたりと話し方や態度も変わります。特に政府組織での対応も丁寧になるので、「これほどの階級社会なのか」と感じることが多々あります。

 

かといって、これ以上のことは期待できません。と同時に、博士号を取得してDr称号をつけることで気をつけないといけないこともあります。

 

それ相応の言葉使いをする義務もある

 

マレーシアでの博士号は、社会のなかで上位に位置する位になります。ということは、言葉使いや態度にも大変気をつけないといけなくなることも意味します。

 

日本人のなかには英語には「敬語がない」と思い込んでいる方が多いのですが、違います。英国は階級社会とともに発展してきた社会であり、英語にはもちろん丁寧な言い方や上品な言い方があるのです。

 

博士号を取得するとこういった英語やマレー語(マレーシアの場合)での物の言い方にも気をつけなければならないのです。極端な話しですが、日本でも博士号をもつ教授の方が「てめー」や「おまえ」という汚い言葉やべらんめえ口調で話をしていたら、かなり引いてしまうのではないでしょうか。「この人は本当に大学院まで行って研究をされた方なのだろうか」と疑問をもってしまうかもしれません。これと同じことなのです。

 

このため、「博士号を取って終わり」ではなく、態度や言葉使いに相当気をつけます。博士号を取るということは社会のなかで地位が上がるため、自戒を込めていいますが、言葉使いや態度にもいい加減なことができなくなることも意味します。

 

また、これは私の東京時代の先生がおっしゃっていたことですが、「博士号を取るということは自分の書いた論文を出版する義務も伴う」のです。修士号ではそこまでの責任は発生しないようですが、博士号の場合は異なります。こういった意味でも博士号を取るとかなりのプレッシャーもかかってくるのです。

 

最後になりますが、博士号を取得された方は名刺に書き込む場合、自分の名前の前にDr.をつけると同時に、名前の下にPh.Dと括弧のなかに大学名(私の場合はMalaya)を記載します。また、博士号を取得された方は修士号も取っていますが、その場合は、Ph.D(Malaya)の次にMA(Malaya)をつけます。MAはMaster of Arts(学術修士)の略ですが、ここは各取得学問によって異なります。修士号だけ取得されている方は、称号はつきませんが、名前の下に上記の表記をつけることはできます。修士号の取得者もマレーシアでは待遇が変わることもあるため、名刺に記載することをおすすめします。ちなみに、修士号を2つもっている場合は、博士号取得と同等に扱われることもあるようです。 

 

伊藤充臣■在馬歴13年目。マラヤ大学人文社会学科歴史学科で修士と博士号を10年がかりで取得。趣味は読書と語学。専門の東南アジアを極めるため、最近ではクメール語に注力している。

 

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