日本国内ではダイバーシティが身につかない理由

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今日本では学校でもビジネスの現場でも「ダイバーシティ(多様性)」が叫ばれる。しかし、モナッシュ大学マレーシアの渡部幹先生は日本でダイバーシティを学ぶことは難しいと断言する。それはなぜか。マレーシアのインターナショナル・スクールの行事を例に説明する。

 

 

 

いま日本のビジネスマネジメントでは、「ダイバーシティ・マネジメント」がキーワードになっている。多種多様な価値観や背景を持った人々をいかに管理するかが、大きな経営課題となってきたからだ。

 

世界をけん引する企業、例えば、グーグル、アップル、フェイスブックなどは、多種多様な人々のコラボレーションによって、その斬新なサービスを打ち出してきた。これからの企業の生き残りのためには、ダイバーシティ・マネジメントが不可欠、ということだ。

 

ところが、ご存じのように、日本の企業は、総じて閉鎖的かつ画一的で、多種多様性をあまり認めない傾向にある。それではいけない、ということで、いかにしてダイバーシティ・マネジメントにシフトできるかが課題となっている。ところが、多くの経営者は、どうしたらいいのか、まったくわからない。当然だ。彼ら自身、同一化を重視する日本企業の文化にどっぷり浸かってきたのだから。

 

マレーシアに住めばダイバーシティを「体得」することができる

 

だが、マレーシアに住んでいると、ありがたいことにダイバーシティとは何か、を理解するだけではなく、「体感」することができる。

 

少し前、娘の通うマレーシアのインターナショナルスクールで開催されたイベントに行く機会があった。ヒンドゥー教のお祭り「ディーパバリ」の催しだった。

 

各学年が、ディーパバリの由来についての寸劇や、インドのボリウッドダンスや歌などのパフォーマンスを披露する。先生、父兄、学生ともに「インド的」なコスチュームが推奨されるので、会場はインディアンコスプレ大会みたいな様相だ。ただ、インディアンドレスを持っていない、あるいは興味のない学生や人々もちらほらいて、彼らはいつもの制服を着ていたり、普通の恰好をしている。だからといって、誰も咎めないし、気にもしない。

 

ディーパバリは、一般にはヒンドゥのお正月と言われ、善の象徴「クリシュナ」が独裁者「ナラカスラ」を破り凱旋した夜が新月だったことから、人々が祝福のため、暗い街をランプで照らして祝ったという神話に基づいている。そのため、「光の祭典」と呼ばれるほどに、きらびやかなライトアップが行われる。

 

ところが、調べてみると、この神話の内容は、インド各地でばらばらだったりするのだ。善の象徴の神が違っていたり、戦いの内容や理由も違う。インド神話は、実はまとまった一つの共通のものはなく、地域によって善神と悪神が入違っていたり、といったことが普通に起こっている。ディーパバリにしても同じで、いろいろな由来があるが、共通しているのは善が悪を倒し、凱旋時に人々が光をもって迎えたという点だ。神話自体がダイバーシティの塊のようなものである。

 

日本でダイバーシティ教育が難しい理由

 

私にとって印象的だったのは、最初に中華系マレーシア人の校長がディーパバリを祝う意義について話し、その後マレーシア国歌斉唱が行われ、皆が一斉に立ち上がって、きちんと歌ったことだ。日本に当てはめて考えてみればいい。例えば日本の学校で、中国の旧正月の意義について校長が話し、その後君が代斉唱で、全員が立ち上がって歌うだろうか。校長がそういう話をするだけで、さまざまなクレームがつくだろうし、君が代斉唱については、裁判まで起こっている。そしてなぞらえるならば、その後中国文化を紹介するパフォーマンスを日本人学生がやる。そんな案が日本で出るだろうか。

 

現状では、日本の学校でこんなイベントを開くのは不可能だ。そしてその事実は、日本のダイバーシティ化を妨げている要因を象徴している。

 

その要因とは「寛容さの欠如」だけではない。「寛容さを越えたコミットメント」が欠如しているのだ。日本人の寛容さは「周りに迷惑をかけない限りは好きすればいい」である。だから、日本の中華街で旧正月のお祭りをすることに意義を唱えることはしない。ダイバーシティの獲得には、寛容であるばかりでなく、文化的な背景を知るための積極的なコミットメントが必要だが、その祭りの内容と文化的意義にコミットし、積極的に発信する日本人はまれだ。。

 

娘の学校では、イベントを通じてそのコミットメントを実践している。もちろん、ムスリムのお祭りも、クリスマスも同様のイベントで祝う。ヒジャプをつけたムスリムの女性の先生がサンタ帽をそのうえからかぶって、楽しそうにマライア・キャリーの「All I want for Christmas is you」を生徒と一緒に歌う。その体験こそが、重要だ。

 

マレーシアでは、そんなダイバーシティを体感できる機会が山ほどある。チャイナタウン、インディアンタウン、ムスリムのイベントらをはじめ、参加して体で理解する機会が多い。私はこれらを活かさない手はないと思う。マレーシアにいる日本人は、これからの日本社会を担う子どもたちのためにも、自らそういった催しにもっと積極的に参加してはいかがだろうか。

 

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
 
UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

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