高信頼が求められるグローバル社会、低信頼の日本社会

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なぜ日本人同士の付き合いが揉めやすいのか。日本の会社の意思決定に時間がかかるのか。社会心理学的に見ると、これは日本が「低信頼社会」であることに起因しているようだ。グローバル社会の中で日本が苦戦しているのはなぜなのか、ではどうしたら良いのか、「信頼」をキーに読み解くと、見えてくる。

 

前回は、日本社会は米国やマレーシアに比べて、低信頼社会であること、そういう社会の中では、人々は「誰と誰が仲がいい」とか「誰かにアクセスするにはあの人と通さないとダメ」といった、人間関係のネットワークのしがらみに囚われやすいことを紹介した。

 

日本的ムラ社会の原因は「社会的ビクビク人間」

 

信頼の高い社会は「人間関係が変化しやすい」

 

信頼の高い社会と低い社会を分ける一つの要因として最近注目されているのが、「人々の人間関係の変化のしやすさ」である。要は「嫌な人から逃げられる社会」や「好きな人を探せる社会」のことだ。それに対し、日本型ムラ社会は「人間関係が固定した社会」だ。嫌な人がいても逃げ出せず、その人とは付き合わなくてはならい。自然と人の顔色をうかがうような人間関係ができてくる。

 

グローバリゼーションとインターネットの普及によって、人間関係の変化のスピードは、年を追うごとに格段に速くなっている。それは社会のさまざまな現象に見て取れる。終身雇用制は崩壊し、離婚率は上昇、一方でネットによる出会いがきっかけの結婚は4割に上る。

 

こういった社会では、より自分を活かせると思ったら、リスクを恐れず、積極的に飛び込んだ方が良い場合が多い。だがそのときには、前回書いたような「他人の本質を見抜くためのコミュニケーション」が必要となる。

 

このようにグローバル化の進む社会では、新しい関係に積極的に飛び込み、チャンスを機敏につかみそれを活かすことが、ビジネスにも人間関係にも重要となってくる。そのために、前回紹介した「他者一般への信頼」つまり一般的信頼を高く持つ必要がある。

 

だが、残念ながら、日本人のメンタリティは、まだ昭和的ムラ社会の影響が強いと言わざるを得ないだろう。よりよい関係を探すよりも、今ある関係の中で、いかにうまく立ち回るかに重きを置く。チャンスが目の前にあっても、きちんと吟味することなく、下手に飛びついて火傷をするか、慎重すぎて本当のチャンスを逃してしまう、といったことが起こる。

 

なぜ日本人が海外の企業を訪問するのが嫌われるのか

 

先月、ダイヤモンドオンラインに「シリコンバレーで嫌われる日本企業の「後出しジャンケン」体質」という記事があった。最近になって、シリコンバレーは再び日本からの注目を集めており、投資や進出に興味を持つ日本企業も多いという。だが日本企業が地元コーディネーターにリクエストするのは、「表敬訪問」や「情報収集」という名目の顔見せが多いのだ。そんな企業の狙いは、まずはビジネスに入る前に、コネクションをつくること。そして、いまシリコンバレーで何がホットなのかの情報を探ることにある。

 

だが、そういう日本企業のやり方は、米国では嫌われる。シリコンバレーで何がホットか、皆それを見極め、あるいは自分のビジネスをホットにさせるために来て、血眼になって働いているのだ。それに、日本企業が興味をもったところがあっても、「自社に持ちかえって検討」がお決まりだ。今のビジネスはスピードが命。良い関係を結べると思うならばすぐに動かなくては、先を越される。日本企業のそういうやり方は「後出しじゃんけん」のように思われてしまうのだ。

 

このように、関係を結ぶのに消極的だったり、意思決定に時間がかかるのは、伝統的に日本が低信頼社会で、関係づくりに時間のかかるビジネスをしてきたからだと筆者は解釈している。そしてこれがグローバル社会の中で日本が苦戦している一要因であるとも考えている。

 

「新参者」と良い関係を築けるかどうかがポイントになる

 

マレーシアもまた、関係性の変化の激しい国である。職場を変わる人、学校を変わる人が多い。馴染みのお店の店員や学校の先生も、入れ替わりの激しさは日本の比ではない。こういった関係の変化の多い社会では、必然的に「新参者」に逢う機会が増える。その新参者と短期間に良い関係が築けるかが重要になる。

 

例えば、子供の学校の担任が辞め、新しい担任が来るということが、毎年のように起こることを考えればいいだろう。新しい先生がどういう人で、その人の教育方法が自分の子供にどんな影響を与えるのかをすぐに見極めなくてはならない。そのために、新参者をまずは受け入れる信頼感の高さと、良い関係を築けるかどうか、相手の本質を極めるコミュニケーション手段が必要なのである。そしてそれは、グローバル社会で生き残るために、日本人が早急に体得しなくてはいけないことなのだと筆者は考えている。

 

だがこれを実践するには、周りが皆日本人の環境ではできない。日本にいてはもちろん難しいし、マレーシアに住んでいても、付き合う人々が皆日本人グループならば、実践は無理である。現地の人々と知り合い、話し、友達になり、時には不愉快な思いをしながらも、自分のメンタリティとコミュニケーション力を鍛えていくしかない。マレーシアに住んでいる私たちが、日本在住の人々と違うのは、それを実践できるチャンスが目の前にあることだ。

 

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
 
UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

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