マレーシアと日本のTrustworthiness

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外国人と日本人の仕事のやり方には大きな違いがあると筆者はいう。日本にいるとなかなか見えないその違いとは何か。グローバル時代に仕事をする人が念頭に入れておくべきことは何かを考察する。

 

大学で指導していると、日本とマレーシアの学生の違いを実感する。こちらで商売を営んでいたり、組織でマレーシア人と働いている人も同じだろう。

 

日本人には任せられる人が多い

 

そして、面白いのは同じマレーシア人の中でも特徴がいろいろある、という点だ。以前このコラムで書いたように、些細なミスでも決して謝ろうとしない「名誉を重んじるタイプ」もいれば、さっさと謝って修正する人もいる。

 

だが、一般的に、マレーシア人と日本人の間にある一番大きな差は、「任せられるか」という点だと思う。もちろん、マレーシア人の方々には日本人以上に仕事のできる人はたくさんいるが、平均的に見て、日本人には「任せられる」人が多いように思う。

 

例えば、仕事の打ち合わせでも、聞き間違いや勘違いはしょっちゅうだし、伝達後、数回確認することもある。期日までにできる、といった場合でも遅れることが多い。

 

それに対し、日本ではそのようなことは滅多に起こらない。仮に起こったとしたら、本人だけではなく、マネージャクラスが飛んできて平謝りすることも珍しくない。最近では、日本に行くとそのサービスの丁寧さに、逆にこちらが恐縮してしまうこともあるくらいだ。自分の中でサービス基準がかなりマレーシアの方に近づいているのがわかる。

 

世界中の国とのサービスのクオリティの違い

 

マレーシアの名誉のために述べておくが、マレーシアのサービスレベルもこの数年で相当上がってきたと感じている。そして、日本と比べれば、アメリカのような先進国も含め、世界中のどの国もサービスクオリティは高くない。簡単に言えば、日本は世界最高だと思っている。

 

その本質は。日本人は「任せられた仕事を正確に遂行する」というタスクに長けているからだと筆者は思っている。それは一言でいえば、「信頼に値する」つまり、Trustworthyであることだ。

 

もちろん例外はあるものの、総じて日本人の仕事がTrustworthyであることは、今は世界で認識されていると思われる。そしてそれは簡単にできることではない。

 

他人の信頼に応え、仕事を遂行するためには。「完遂しようとする意図」と「完遂できるための能力」の2つを兼ね備えていなくてはならない。その仕事をチームで行うためには、意図は全員が共有していなくてならないし、能力はグループ全体でそれを発揮できるようにコーディネーションしなくてはならない。

 

昭和時代から、日本社会ではあれだけ談合や不透明な入札やコネがはびこっていたにも関わらず、国が発展できたのは、このTrustworthinessのおかげだと筆者は思っている。

 

自治体の公共工事を、3つの地元工務店が順番に請け負うことが暗黙の了解になっていて、見積もりなども3社で全然違いがない、などという談合はよくある話だった。それにもかかわらず、長い間問題にならなかったのは、多くの場合、請け負った各工務店が信頼に足る仕事をしていたからだ。

 

入札過程が不明瞭で不公正でも、結果的に問題にならないくらい日本人の仕事ぶりは「任せられるものだった」わけだ。

 

意思があるからと言って能力が伴うとは限らない

 

それに対し、マレーシア人は上記の「意図」と「能力」をもっと区別している。このコラムでも述べたことがあるが、例えば誰かに道を聞かれた場合、役に立ちたいと思っていても案内に自信がなければ教えないのは日本人で、役に立ちたいと思っていればあいまいでも教えてしまうのがマレーシア人だ。「教える」「役に立とうとする」意図が能力よりも重要なのだ。

 

だから、マレーシア人に仕事を頼んだ場合、快く引き受けてくれる場合が多いし、大抵の場合、彼らは人間的に良い人だ。だが、だからといって能力があるかどうかは別の話である。したがって、日本人以外と仕事をするとき、私たちは彼らに遂行する能力があるかどうかを見極めなくてはならない。

 

ところが、日本で生まれ育った日本人はそれが得意ではない。相手の能力を見極めることなど不必要な社会だからだ。しかし、マレーシアを含めた日本以外の国では、見極めることが非常に重要となる。

 

そのためには、日常のコミュニケーションから、能力のシグナルを拾ってきたり、能力を査定するための個人スキル、人事スキルが必要となる。そして、すでに日本でもそういった意図と能力の区別とそれに伴う見極めの必要性は高まっている。日本の労働者も、だんだん世界標準に近づいているのだ。

 

筆者が東京で行っている人事ベンチャー、ヒトラボジェイピー(https://hitolab.jp/)もそういった背景から立ち上げた会社だ。
日本が世界に先んじているのは、意図と能力を合わせたTrustworthinessの高さだが、それを担保していたのは、終身雇用制に象徴される「安心型社会」だった。将来にわたる付き合いがあるからこそ、一生懸命期待に応えなくては、というプレッシャーがあったのだ。だが、現在のように雇用流動性が高い時代には、そんなプレッシャーは低くなる。

 

しかし経営者が個々の労働者に対して、Trustworthinessを「責任感」や「やりがい」といった労働倫理の言葉で強要するケースが少なくない。それを変える新たな仕組みが日本には必要なのだ。

 

マレーシアで過ごし、マレーシアの人々の働きぶりを観察することは、これからの日本の労働トレンドを予測するうえで非常に参考になる。

 

そのうえで、私たちは日本人として、世界の中でいかにTrustworthyでいられるかを考える必要あろう。なぜならそれが日本人の「品格」になると筆者は考えているからだ。

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
 
UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

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