マレーシアに高級車が多いのはなぜか

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マレーシアで売れる「価値」とは何か

 

マレーシア、特にKL近郊で暮らしていて、よく不思議に思うのが、街を走っている高級車率の高さだ。ここでいう高級車は、メルセデス、BMW、アウディ、ポルシェ、レクサス、GTR、ランボルギーニ、フェラーリなどだ。田園調布や芦屋にいけば別だが、日本ではKLほど高級車の率は高くないように思う。
日本よりも平均所得が低く、かつ人口も少ないこの国で、首都圏とはいえ、これだけ高級車が多いのはなぜか。確かにブミプトラの人々は、車購入の際に頭金が要らず、昔のレコードに関係なくローンが通ることが多いため、買い代えしやすいという状況はあるだろう。しかし、それを差し引いても、高級車率は高い。日本でもめったに見ないポルシェやランボルギーニ、フェラーリもよく見かける。
観察すると子供の級友のマレーシア人両親も、傍からみた限りでは、生活水準に比べ、比較的いい車に乗っているようだ。仮にこの国で相当お金があったとしても、自分ならば、そこまで高級車を買うだろうかと思ってしまう。実際、アメリカやオーストラリアに行っても、走っている車の高級度は違う。これら先進国の方が、圧倒的に中級車の割合が高い。
つまり、マレーシアは生活水準に比較して、高級車購入の割合はかなり高いのだと思う。そしてこれが正しいとすると、なぜ皆そんな高級車を買いたがるのか、筆者は疑問に思っていた。

 

「伝統」「技術」に興味がない人もいる

 

そんな折、先日KLの日系ショップのイベントを行っている友人と話しているときに、興味深い話を聞いた。その友人は、日本の職人技を活かしたアイテムを売る手伝いをしていたのだが、そのアイテムを製造している会社の社長さんから、こんな話を聞いたという。
そのアイテムは、職人技を駆使した高品質ぶりが評判となり、ヨーロッパの王室やアカデミー賞などのパーティで使われたりするのだそうだ。そんな「御用達」であることを、宣伝に使うと、欧米圏ではみな買ってくれるという。欧米圏では、また創業○○年、○○一筋みたいな、「伝統」を押し出すのも効果的という。「長い間、見る目のある人々に愛され続けてきた」という事実がブランド価値を高めるため、それを前面に押し出したマーケティングを展開し、成功を収めたという。この方式は、中国でもある程度成功した。
ところが、同じ戦略をマレーシアで使おうとしたところ、大失敗したそうだ。マレーシアの人々は「伝統」や「技術」には興味がないという。旅行代理店の方が話していたが、マレーシア人の日本ツアーで寺社仏閣に連れて行くと、興味を示すのは最初だけで、寺社巡りなどをしても「同じようなものをこんなに見せてもらわなくてもいいよ」と断られることもあるという。また由来や縁起、建物に使われている伝統工芸技術などの説明に興味を持つ人も少ないのだそうだ。つまり、伝統や歴史という、アイテムの背景にあるストーリーには価値を見出さない。これはマレーシアだけではなく、シンガポールでも同様らしい。
開店当初は純日本的で美味しかった日本食レストランが、時間が経つと味やメニューがローカルっぽく変化していって、結局行かなくなってしまうという経験を、筆者は何度もしてきた。開店時にいた日本人スタッフが、ローカルスタッフに任せてしまうと、やがてローカル色に染まってしまう。その変化の根底には、今述べたような日本食の伝統や技術に対する興味の度合に違いがあるのではないかと思ってしまう。
では、何がマレーシアでは価値を持つのか。それは「箔」、もっと有体に言えば、自慢できるもの、他人が羨みそうなものだ。最も顕著な例は、一目で「高いだろうな」とわかるブランド品や高級車である。あくまで程度問題だが、そういったものへの嗜好は、日本や欧米よりも高いと考えられる。

 

文化に対する考え方の違いを知ろう

 

筆者が感じていた高級車率の疑問への答えは、高級車を持つことが、マレーシア人の価値観にマッチしているからだったのだと、上の話を聞いて思った。
すでに確立された伝統や技術にこだわらないという側面には、良い部分もある。例えば、非常に素晴らしい盆栽ばさみを売り出したところ、それを買っていったのは、鶏をさばく業者だったそうだ。確かに考えてみると、マレーシアで盆栽ばさみが最も活躍できるのは、鶏解体の場面かもしれない。
つまり日本の高品質商品を売るには、日本や中国や欧米とは異なる、こちらに合わせたマーケティングが必要になってくるということだ。その鍵は、「箔」と「新しい実用性」である。箔は、平たく言えば自慢しやすいものである。新しい実用性については、ローカルの人々と一緒に有用性を探っていく必要があるだろう。
いずれにせよ、文化によって商品の与える価値は異なることを、私たち日本人はよく知るべきだろう。私たちの文化内での価値を押し付けるような売り方をしては、ローカルの人々には響かない。マレーシアで日本発のものを売るには、マレーシア文化を知ったマーケティングが必要なのだ。そして、そのためには、こちらの人々とコミュニケーションをとり、こちらの人々と一緒に考える必要があるはずだ。

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
 
UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

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