京大・早大を経てマレーシアにきた社会心理学者に、日本との教育の違いを聞いてみた(後編)

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社会心理学者であると同時に、大脳生理学と経営学の融合プロジェクトであるニューロビジネス分野を研究している渡部幹先生。日本の一流大学から、マレーシアにあるオーストラリアの名門モナッシュ大学に転職したという珍しい経験を持っています。日本、米国、オーストラリア(マレーシア)と3つの国で教育経験を持ち、自らもマレーシアに住む小学生の親でもある先生に、いま娘さんが受けているグローバル教育、そして日本の教育について、聞いてみました。

◼︎学校教育よりも大事な「親が問題解決している姿」

学校の外での教育についてはどうでしょうか。教育は学校だけではないですよね。

私は教育は学校よりも、親が「問題を解決している姿を見せる」ことが大事だと考えています。例えば、海外に移住した親が、住むところをどう探すか。子供は、親が生きるための意思決定をしている姿を見ています。そういう意味で、その意味ではいま流行の母子留学には僕はあまり賛成しません。これからも家族は連れて行くと思います。

なぜ、日本の教育を変えなければ、という論調をあちこちで見るのに、変わらないのでしょうか。

日本社会で生きていくには、旧来のシステムに倣っていたほうが「適応的」だからなんだと思います。例えば、日本の学生は仕事内容で就職先を選ぶのではなく、会社名で選ぶという批判があります。これに対応するために、大学で専門分野をきちんと教育するべきという意見があります。しかし、現実には日本の会社に入ってもどの部署に配属されるかはわかりません。会社は、どんな業務でも文句をいわず、高い能力を発揮して頑張る社員を望みます。そうすると就職活動をする学生も「自分の専門は○○だから、それを活かして御社に貢献したい」というよりも、「どこに配属されても全力で頑張りますので、よろしくお願いします」と志向したほうが良いのです。

学生は専門性を求められないわけですね。

本来経営の専門家を養成するMBAにしても、年功序列の日本では学歴と一緒で箔付けにはなるけれど、それ以上のものにはならないんです。会社自体が、年功序列のコミュニティー志向社会だからです。だから誰でも一定の年齢になると上司になれます。大学で専門的にリーダーシップとかマネジメントとか教えても意味がないんですよ。

会社も変わらないんですか?

海外では株主が絶大な力を持っており、企業も勝手なことはできませんが、日本企業の場合、まだまだ企業の所有者たる株主が関連銀行だったりすることが多いのです。本来のマネジメントも行われず、なあなあの関係、つまり日本型コミュニティの中でやっているわけですね。

大学の内部はどうでしょうか。

日本の大学はグローバル化を目指してさまざまな取り組みをしています。大学もそうです。例えば、欧米の大学では、多かれ少なかれ3年ごとに論文をいくつどこに載せる、などの目標数値が決められ、達成できないと首になることもあります。日本にはそういうものがなく、論文を書かない先生でも大学にずっといられます。個人のディシプリンに頼っているのです。

高校や中学でグローバルな感覚を教えることも難しいですか?

では高校や中学はどうかといえば、こちらは大学受験に受かるための教育を求められています。グローバル教育などをやっている時間はないのです。企業が変わらない限り、日本の教育システムを変えるのは難しいのです。

◼︎会社が変われば日本が変わる

すると日本はずっと変わらないのでしょうか。

いえ、今後は変わっていくとみています。なぜなら会社が変わらざるを得ないからです。東芝やシャープのように、かつての大会社がグローバル化のなかで立ち行かなくなってきています。その代わり、グーグルのような、同じ目的を持ったものが集まる、という会社が主流になっていくでしょう。これから小さいけれど優秀な会社が多くなっていくんじゃないのでしょうか。案外早く、10年くらいで変化が起きるとみています。

ありがとうございました。

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

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